モンパルナスを愛したディオールのカメラマン Willy Maywald
パリの歴史に興味がある方にはお馴染みの博物館といえば、マレ地区にあるカルナヴァレ館。今ここで、ドイツ人写真家ウィリー・メイワルド(Willy Maywald, 1907-1985)の回顧展が開催されている。その名も「Willy Maywald, le Pari(s) de la création – Photographies, 1931-1955」。ウィリー・メイワルド、創造の賭けといったような意味であるが、Pari(賭け)とParisをかけてしまうあたりに、主催者側の意気込みを感じてしまう。
ベルリンの美術学校で写真を学んだ若きメイワルドは、1931年に初めてパリの地を踏んだ。翌年には活動の拠点をパリに移してしまったのだから、よほどこの街で受けた刺激が大きかったのだろう。彼が住み着いたのは、当時はパリのボヘミアといわれていた、モンパルナス。ピカソ、シャガール、モディリアーニ、藤田嗣治など多くの外国人画家が活躍した、いわゆるエコール・ド・パリの最盛期はもう過ぎていた。しかし、あらゆる国籍の芸術家たちが集い、貧しいながらも自由に暮らし、新しいものを生み出す場所に変わりはなかった。
1936年のある日、モンパルナスのカフェで、メイワルドはクリスチャン・ディオールと出会う。もともとハーパーズ・バザーなどのモード雑誌に興味を持っていた彼は、ディオールのもとでファッション写真を撮り始める。第二次世界大戦中は、フランスの敵国ドイツ人であるメイワルドはスイスに逃れていたが、戦後パリに戻ると、主にモードの世界で活躍した。こうしてメイワルドは、「ディオールの写真家」として、世間にその名を知らしめたのである。
今回の展覧会がことに興味深いのは、「ディオールのカメラマン」という一般的なアプローチ以外の視点からも、メイワルドの作品を評価していること。勿論、息を呑むほど美しいモード写真も、豊富に展示されている。それと同時に、モンパルナスの芸術家たちや、1937年のパリ万博と、メイワルドが1930年代のパリで見たもの・興味をもったものをカメラにおさめた作品群も、この展示の大きな目玉となっている。さすが、パリの歴史を専門とした博物館の企画、といったところだ。
一鑑賞者である私自身も、パリで何かを吸収しようと思って、外国からはるばるとやってきた一人である。メイワルドがパリで出会ういろいろなことに興味を持って、目を輝かせながらシャッターを切っていたことを想像すると、つい親近感を持ってしまう。そんな、外国人を惹きつけてやまないパリの魅力も、パリの歴史を語るには欠かせない要素だと私は思う。
また写真のほかに、場内のビデオモニターで上映されている映像も見逃せない。みどころは、1958年にメイワルド自身が製作した、モンパルナスについての短編ドキュメンタリー。そして、未編集と思われるインタビュー映像。インタビュー映像では、写真家よりもむしろデザイナーといった感じの、洗練された色気のあるご本人の姿を拝見できる。
「終戦直後のパリは、惨めさのどん底だった。だけど、ディオールのアトリエは違った。ここから新しい何かが始まると、僕は感じたんだ」というメイワルドの言葉は、自由なパワーの漲る1930年代のモンパルナスを知るが故に出てきたものなのかもしれないと、納得してしまうのである。
Musée Carnavalet【カルナヴァレ博物館】
23 rue de Sévigné 75003 Paris
Tel. : 01 44 59 58 58
メトロ : 1番線Saint-Paulか8番線Chemin vert
開館時間 : 10 :00~18 :00
休館日 : 月・祝日
展覧会「Willy Maywald, le Pari(s) de la création – Photographies, 1931-1955」
2007年9月30日まで。
入場料 : 一般7ユーロ、割引5.5ユーロ
カタログ : 38ユーロ
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