知られざるモード写真の祖 Edward Steichen

 Edward Steichen, Gloria Swanson, New York, 1924
© 1924, Condé Nast Publications

スタイケンという名をきいて、ピンとくる方のほうが少ないのではなかろうか。ルクセンブルク生まれの帰化アメリカ人、エドワード・スタイケンEdward Steichen(1879-1973)は、実は芸術写真の礎を築き、史上初のモード写真を撮影したといわれる偉大な写真家なのだ。雑誌『カメラ・ワークCamera Work』への参加、ヴォーグやヴァニティ・フェア誌などを出版するコンデ・ナスト社Condé Nastにてのチーフ・カメラマン、そしてニューヨーク近代美術館MoMAの写真部門にてのチーフ学芸員など、20世紀写真史のキーポイントに、彼の名前がある。
そんな「不当に知られざる巨匠」スタイケンの、なんとヨーロッパで初めてという大回顧展が、コンコルド広場にあるギャラリー、ジュ・ドゥ・ポームで開催されている。

 Edward Steichen, Brooklyn Bridge, 1903
© Joanna T. Steichen

展示はスタイケンの人生の時系列に沿い、そのスタイルやポリシーの変化を直に感じ取ることが出来るのが非常に興味深い。20世紀初頭、若き日のスタイケンはパリにやってきて、ロダン、ピカソ、ロートレック等といったスター芸術家達と親交を持つ。その頃はまだ、絵画的な写真、いわゆるピクトリアリスムと呼ばれるスタイルの作品を撮っていた。ソフトフォーカスの多用もその特徴、というよりもこれが当時の写真のメインストリームであったといえるだろう。
そんな彼の作風がガラリと変わるきっかけとなるのが、第一次世界大戦であったという。我々展覧会の見学者も、会場内でそれを目の当たりにできる。アメリカ空軍の従軍カメラマンとなった彼の作品は、それまでのソフトな風景写真や人物像とはうってかわった、戦場の風景。スタイケンが受けたショックが、そのまま我々にも襲ってくるかのようだ。

 Edward Steichen, Marlene Dietrich, 1934
© 1935, Condé Nast Publications

1920年代になってニューヨークに戻り、コンデ・ナスト社に入る。そうして、モード写真にスタイケンありき、とばかりに、この世界をリードすることになる。さらにこの時代は、ハリウッド映画の最盛期。チャップリン、ディートリッヒ、ガルボ、アステア・・・と、当時の大スター達も多く彼のカメラに収まっている。またこの時期、大手広告会社ウォルター・トンプソンのとの仕事も多くこなしている。その華やかさには、思わずため息が漏れてしまう。

しかし1938年には、スタイケンは商業写真からあっさり引退してしまう。MoMAの学芸員となったのもこの頃だ。それからも創作活動をしなかったわけではないが、方向性はどんどん社会派に向いていったようだ。まるで、第一次世界大戦のショックがそのまま刻まれているかのように、会場の後半は痛々しい戦争写真で埋め尽くされている。華やかなモード写真とのギャップは激しく、果たしてこれが同一の写真家によるものなのか?とさえ思ってしまうほど。
自らのスタイルの原体験に回帰する、ということなのだろうか?それとも、虚構の美しい世界ではなく生々しい真実にこそ、芸術の意味があるという解釈なのだろうか?結果、スタイケンの写真人生を一度に振り返ることができるこの展覧会は、見るもののあらゆる感受性を刺激するものとなっている。

展覧会『Steichen, une épopée photographique』
2007年12月30日まで

Jeu de Paume Site Concorde【ジュ・ドゥ・ポーム】
1 place de la Concorde 75008 Paris
メトロ : 1・8・12番線 Concorde
Tel : 01 47 03 12 50
入場料 : 一般6ユーロ、割引3ユーロ
開館時間 : 火 12:00 – 21:00、水~金 12:00 – 19:00、土・日 10:00 – 19:00
休館日 : 毎週月曜、12月25日、1月1日、5月1日
http://www.jeudepaume.org

by mayu on 2007-11-14 [アート]
Print This Post/Page

 

この記事に対してコメント、またはトラックバックを送信できます。

トラックバックURL : http://www.hayakoo.com/steichen/trackback/