グラン・パレのドームの下で芸術鑑賞 Monumenta 2007
現在、シャンゼリゼのそばのグラン・パレで、ドイツ人芸術家アンゼルム・キーファーの大展覧会が開催中だ。一口にグラン・パレといっても、1900年のパリ万博の際に誕生したその巨大な建物には、現在3つの施設が同居している。まずはパレ・ド・ラ・デクヴェールこと科学技術博物館、そして定期的に意欲溢れる美術展を企画するグラン・パレ・ナショナル・ギャラリー。今回ご紹介する展覧会の会場は、残るひとつのラ・ネフ・デュ・グラン・パレである。
ネフ(Nef)とは、一般的には教会の身廊や中央広間をさすフランス語。長い改装工事の末、2005年に再オープンを迎えたことが記憶に新しい方も多いだろう。文化通信省のイニシアティブにより、60mの高さを誇る美しいガラス張りのドームの下が、約13.5ヘクタールもの広さを誇る巨大展示スペースに生まれ変わった。この素晴らしい環境のもとで開催されるのが、モニュメンタと名づけられた、やはり文化通信省による企画。毎年一人ずつ、世界に名だたる現代アーティストを一般市民に広く紹介するという試みである。記念すべき第一回目、モニュメンタ2007に選ばれたのが、このアンゼルム・キーファーというわけ。なお2008年にはアメリカ人彫刻家リチャード・セラ、2009年にはフランス人のクリスチャン・ボルタンスキーの特集が予定されている。
キーファーは1945年ドイツ生まれだが、13年前から、南仏はバルジャックという村の廃工場にアトリエを構えている。彼の作品は、世界観のみならず、物質的なスケールも大きい。キーファーこそが、ラ・ネフ・デュ・グラン・パレの広大な空間を存分に生かすことができる芸術家、と主催者側は胸を張る。その期待が外れることは全くなく、『Sternenfall』(フランス語で『Chute d’étoiles』、落星といったような意味)と名づけられたこの展示のために、キーファーは壮大な作品群を生み出した。がらんとした空間に光が降り注ぐこの会場は、彼にとって宇宙を想像させるものだったのだ。また同時に、ユダヤ人のパウル・ツェラン、そしてオーストリア人のインゲボルク・バッハマンという2人の詩人の作品をイメージしたものでもあるそうだ。
まず会場に入ると目に入ってくるのは、まるで廃墟のようなコンクリートと針金の堆積。よく見ると、それぞれの物質が、微妙なバランスでその形をキープしているのがわかる。キーファーは芸術作品を、決して完成形がないものと捉えている。インスタレーションのみならず、大型の絵画作品も多く展示されているが、使われている画材は、植物、鉛、樹脂、土、毛髪・・・と、従来の想像を絶するものが並ぶ。うごめくようなエネルギーを発するものばかりだ。同時に観客は、それらの物質が今にももろく崩れ去ってしまいそうな不安感にも駆られる 。そこには、命あるゆえのはかなさというべきか、日本的な美意識さえ感じてしまう。
またキーファーにとって、人間の叡智の営み「本」も重要なモチーフの一つ。それは、鉛の巨大な本とガラス片で構成された「鉛の本棚(下写真中央)」でも確認できる。キーファーは言及していないが、私はナチにより行われた焚書をイメージせずにはいられない。ドイツ人であるキーファーの世界観には、ヒットラーの時代やその消えない傷が影を落としていると言われている。
1999年に、キーファーは世界文化賞を受賞。2007年10月にはルーブル美術館に、彼の手による巨大壁画が登場するそうだ。これは、1953年のジョルジュ・ブラック以来の栄誉とのこと。この20世紀、そして21世紀を代表する芸術家になるキーファーの壮大な展示を、見逃す手はないはずだ。
展覧会 『Monumenta 2007 : Anselm Kiefer, Sternenfall』
http://www.monumenta.com/
2007年7月8日まで
入場料 : 一般4ユーロ、割引2ユーロ
開館時間 : 月・水曜 10:00-20:00/木~日曜 12:00-0:00
閉館日 : 火曜
La nef du Grand Palais【ラ・ネフ・デュ・グラン・パレ】
http://www.grandpalais.fr/
Porte principale, avenue Winston Churchill 75008 Paris
メトロ : 1・13番線 Champs-Elysées Clémenceau
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[…] 昨年のアンゼルム・キーファーを見た方には、入場した時にこれだけ?、という落胆のため息を出してしまうかもしれない。簡単に言えば、5枚の巨大な板が垂直に立ち並んでいるだけなのだ。 […]
Pingback by 今年のモニュメンタはリチャード・セラ Monumenta 2008 »パリ発フランス情報ハヤクー::hayakoo - 2008-06-01 @ 8:24 am