静かで力強い平和へのメッセージ Alexandra
前作『太陽』では昭和天皇を描くなど、その大胆な個性で知られるロシアの映画監督、アレクサンドル・ソクーロフ。先日フランスで公開となった彼の新作『アレクサンドラ』では、今でも内紛の絶えない、チェチェン共和国が舞台となっている。とはいってもこれは、ソクーロフ本人が言うとおり、「戦争映画」ではない。しかし、強烈な「反戦映画」ではある。
ストーリーは、老婆アレクサンドラが、チェチェン共和国駐屯のロシア軍に在籍する孫を訪問する、ただそれだけ、というシンプルさ。戦闘場面もないし、物語中で誰が死んでしまうわけでもない。しかしながらこの作品には、私たち観客の心に深く踏み込んでくる何かがあるのだ。
ソクーロフの作品の魅力は、その映像の力強さにある。抱き合って再会を喜ぶアレクサンドラと孫、現地チェチェン人と友情で結ばれるアレクサンドラ・・・。そんなただでさえ感動的なシーンにあわせて、目に強烈な印象を焼き付けるイマージュに、ソクーロフ節が唸る。
戦車の中に入ってみたり、銃を構えてみたりする老婆の姿の異常さ。39度という高気温を描く、目が眩むほどの強い光。市場で買い物をするアレクサンドラの背後に突如現れる、爆撃で半壊した建物。そして恋愛ではないか?と思わせるほどの、祖母と孫の愛(ソクーロフは『父、息子』では、親子の同性愛近親相姦を描いたということを忘れてはいけない)。その度に、目から入った衝撃は脳を通り越してそのまま心に響く、といった感じだ。
そしてもう一つ、この作品でとても興味深いのが、軍隊や兵士の描き方にある。普通、荒々しく、ある意味物見高く描かれがちのこの世界だが、この作品に登場する兵士達は皆、紳士的ともいえるほどアレクサンドラに親切である。祖母が面会に来ることが許されるということにも、そもそも驚きではあるが。彼女が「兵士達は皆少年のようだわ」と言うように、彼らはごくごく普通の現代の若者なのである。そこに浮かび上がるのは、普通の人間が普通に参加している、という戦争の恐ろしさだ。
2007年度カンヌ映画祭コンペ部門では、最高賞パルム・ドールの本命?ともいわれていたこの作品。ロケは危険を冒して、現地チェチェン共和国で敢行されたとのことである。そこまでして、ソクーロフが私たち観客に伝えたかったものを、十分にくみ取りたい。
Alexandra【アレクサンドラ】
2006年 ロシア作品 92分
監督 : アレクサンドル・ソクーロフ Alexandre Sokourov
出演 : Galina Vishhnevskaya, Vasily Shetvtsov, Raisa Gichaeva
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