女であること、女優であること Actrices
日本で、『負け犬』という言葉が流行って久しい。仕事に没頭し、気がつけば未婚子供なしのまま40代…この映画『アクトリス』の主人公のマルスリーヌも、まさにそんな女性である。彼女の職業は女優。ツルゲーネフの『村の一月』の舞台に、主人公ナタリア・ペトロヴナ役として抜擢されるも、情熱的な恋をしている女性という設定のこの役に入り込めない。産婦人科では「子供を作るなら今のうち」と言われ、教会では聖母マリア像に子供が欲しいと祈り、母親には「彼氏はどうした」とつっこまれ、心の中には虚しさと焦りが広がるばかり…。
この作品の監督および主演は、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ。女優としてキャリアを積み、2002年に『駱駝と針の穴Il est plus facile pour un chameau…』で映画監督デビュー、ルイ・デリュック新人賞を受賞している。今回の『アクトリス』も、第60回カンヌ映画祭のある視点部門で審査員特別賞を獲得した。ちなみに彼女の妹は、もしかしてフランスのファースト・レディになるかもしれない、歌手のカルラ・ブルーニである。
主演もこなす監督は、北野武、クリント・イーストウッド…と結構いるが、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキは中でも一番自叙的なカラーの強い作風を持っているかもしれない。1964年生まれの彼女は勿論独身。イタリア出身の富豪ブルーニ家が、誘拐の標的になるのを恐れてパリに移住してきたのは有名な話だが、『アクトリス』の中でヴァレリアの母本人が演じるマルスリーヌの母は、豪華なアパートに暮らしイタリア語を話す。さらには、舞台になっているのは、パリ郊外ナンテールにあるアマンディエ劇場。監督本人も、かつてはこの劇場付属の演劇学校の生徒であった。このように、観客がマルスリーヌ=ヴァレリアと思い込んでも当然といった状態なのだ。
要は寂しい女の独り言ってこと?と敬遠してしまうのはまだ早い。自嘲的さも重さもしつこさもなくこの作品を楽しめるのは、やはり生粋の女優であるヴァレリア・ブルーニ・テデスキのどことなく剽軽な演技によって加味された、スラップスティックコメディ的なものによるのではなかろうか。また物語が進むにつれ、どんどんマルスリーヌの夢想か現実かわからない要素が入ってきて、自己完結という言葉では済まされない独特な世界を作り上げ、見る者を魅了する。
監督のプライベートに限りなく近いものが描くというのは、得てして「独り相撲」という危険な罠に陥りやすいものである。あえてそこに踏み込んだうえ、万人に向かって話しかける「映画作品」として成功させているのは、ただ一言、見事である。
Actrices【アクトリス】
2006年フランス作品 107分
監督 : ヴァレリア・ブルーニ・テデスキValeria Bruni-Tedeschi
出演 : ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、ノエミ・ルヴォフスキーNoémie Lvovsky、マチュー・アマルリックMathieu Amalric、ルイ・ガレルLouis Garrel
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ヴァレリア・ブルーニ・テデスキの『ふたりの5つの分かれ路』を見て以来ファンになりました。知的で気品があって才能に満ちた女優さんだと思います。
コメント by 台湾人 - 2008-03-25 @ 7:08 am